LED電源の追考
三端子レギュレータやオペアンプを使用した電源回路は、最初に何かしらの電位を出し、 その後、基準電位と比較して高ければ低く、低ければ高くなるように調整し続ける帰還型の 安定化電源回路です。この短い説明からも分るとおり、帰還の仕方によっては微小な 高低(発振)を続ける回路です。 私はこの構成が何かシックリこなくて、他に良い回路はないかと検討していたところ、 シャント型の電源回路と出会いました。と同時に、 Prostさんが広められたLED電源 とも出会い、後者の電源を解析し始めました。
LED電源以外の安定化電源回路が悪いというわけではありませんが、LED電源はその構造の簡単さ から、自分一人で原理が理解できたという点で愛着のようなものを持っています。 Prostさんには感謝です。 LED電源を幾つか作っているうちに、もう少し発展させる事が出来ないかと思い、考察と実験をしてみることにしました。
基本回路
LED電源の基本は下図の回路です。変則的なエミッタフォロアと言えばいいのでしょうか? D2~DnのLEDの電圧降下を利用してQ2のトランジスタのベース電位を決め、 Vbe_q2分下がった電圧が出力されます。D1, Q1, R2 で定電流回路を構成しています。 基本的にエミッタフォロアなので出力は低インピーダンスになります。 定電圧電源として動作する内容をもう少し詳しく見ていくことにしましょう。
LEDの電圧降下でD1の両端には V_d1 の電位差が生じます。 D1のカソード側に繋がっているトランジスタQ1では、ベース・エミッタ間電圧 Vbe_q1 が生じます。 これにより、抵抗R2の両端には V_r2 = V_d1 - Vbe_q1 の電位差が生じ、R2には I_r2 = V_r2 / R2 の電流が流れます。 |
直列に接続したLED(D2~Dn)は、流れる電流 I_dn によってそれぞれ電圧降下が発生して…総和した V_dn の電位差が生じます。 この電位は、トランジスタQ2のベース電圧となります また、トランジスタQ2ではベース・エミッタ間に Vbe_q2 の電位差が生じます。 これらより、出力電圧 Vout = V_dn - Vbe_q2 となります。 |
この様に、LED電源では要所要所にLEDの電圧降下で生じる電位差を利用して基準電位を作って Vout を定電圧化しているのです。
基準電位の元となっているLEDは流す電流の量に伴って電圧降下の量が変化します。
LEDのI-V特性は仕様書になかなか載っていないので、試しに秋月のLED OSYL3133A(黄色) の特性を測定してみました。
LEDも半導体なので個体差がそれなりにありますし、測定時の温度にも影響を受けるのでこのI-V特性は参考程度にしてください。
LEDは電圧を上げていくと、ある点(Vf)より急激に電流が流れる様になります。上記のLEDでは仕様上 Vf = 2.1[V] となってます。この電圧付近を境に電流が流れる様になります。 LEDの種類(特に色)によりこの電流が流れはじめる電圧が変わり、 赤・黄・緑は低く 2[V]前後、 白・青が高く 3.5[V]前後です。 なので、+15Vの電源とするには上記の黄色のLEDではD2~Dnの部分に約8個のLEDを必要とします。
では、入力電圧 Vin は何[V] 以上必要になるのでしょう?
先ず思いつくのが、トランジスタQ2のコレクタ・エミッタ間の飽和電圧 Vce(sat)_q2 です。 Vce(sat)はコレクタ電流に依存して変化します。 2SC1013の場合(詳細な仕様書を見つけられなかった)、Ic=1[A] で最大 1[V]のようです。 |
別の経路も確認しておかなければなりません。 基準電位を生成する回路側です。 この電圧は、Vbe_q2 + Vce(sat)_q1 + V_r2 になります。 V_d1=2.1[V], I_r2=10[mA] とすると、だいたい 2.2[V] くらいでしょうか。 |
従って、Vin は Vout より上記どちらか大きい方 以上の電位を必要とします。 細かい事を言えば、Voutが小電圧の場合、V_d1 + V_r1 とかにも注意をした方がいいです。
何れにしても、Vout は 基準電位を生成する V_dn の値に左右されるので少し大きめに見積もっておく方が良いでしょう。
VinとVoutの差をあまり大きな値にすると電圧降下分を熱として放出する Q2 のトランジスタが熱くなってしまいます。
それと、ここで求めた Vin の値はあくまでも動作するのに最低必要となる電圧です。 この回路より前段で電圧が安定化されていない場合は、最低限ここで求めた値以上の電圧を確保する必要があります。
電圧降下やその他色々な所で 電気→熱 の変換が行われています。
代表的なのが、Q2 ですが、Q1やR1も要注意です。
基本回路の弱み
基本回路のままでは、2つの弱みを持っています。その2つ共、基準電位の変動をきたす要因になります。いずれも、前後の回路によって Vin もしくは、I_out に変動が無い回路では問題になりませんが、 そのような構成にするのは難しいです。特に I_out が一定の回路が後段に付くなんてのはまずあり得ません。
改良検討
定電流回路部の弱みについて、いくつか改良方法を思いついています。 その例を下記します。LEDに直列に繋いでいるのが抵抗器なので、電流値は電圧変動によってもろに変動します。 なのでこの部分に定電流素子(CRD)を繋いで電流の安定化を図る方法です。 電圧の変動分を全てCRDで吸収するので、LEDに供給する電流が安定します。 電圧が低い場合は抵抗器は無くても良いです。 ただし、CRDが安定に動作するためには 5[V] くらいの電圧を必要とします。 CRDの代わりに JFET のソースとゲートを直結した定電流回路を用いるのも可能です。 この方法は実際に プリアンプの電源 を作成した時に使いました。 この時はFET版を使ったのですが、FETが結構熱くなり、簡素な放熱版を付けました。 |
LEDの電圧降下を利用していたのを、トランジスタのVbeによる電圧降下を利用するように変更してみます。 これにより、図中の Q1, Q2 で強帰還がかかり、定電流回路を構成します。 Vbe_q1はベース電流 Ib_q1 に依存し、Ib_q1 は Ic_q1 に依存しますが、Ic_q1 の変動事態 そう大きくないので Ib_q1 ひいては、Vbe_q1 への影響はさほどありません。 2SA1015 を例にとると、Ib = 1~10μA の時にVbeが比較的安定(変動が少ない)しています。 hFE = 200 とすると、この時の Ic は 0.2 ~ 2mA です。なので、R1 の消費電力を抑える事もできます。 また、R2の両端電圧をLEDの電圧降下を利用していた時より小さくできるので、僅かですが低い Vin でも駆動する事ができます。 この方法は実際に ぺるけ式 FET式差動ヘッドホンアンプ(AC100V版) で使用してみました。 |
出力電流 I_out の変化による 出力電圧 V_out の変化については、電圧制御トランジスタ(基本回路のQ2)の hFE を上げる事くらいしか思いつきません。
hFEを上げる方法として、トランジスタを2つ使ったインバーテッドダーリントン接続を試してみました。 インバーテッドを選んだ理由は、見かけ上のhFEを大幅に上げる事ができる事と、 Vbeを生成するトランジスタと Vin からの電圧降下分の損失を吸収(熱に変換)するトランジスタを分けることができ、 Vbeへの熱の影響を大幅に軽減できるから、 V_out が V_dn からトランジスタ1つ分の Vbe だけ降下した電圧となるので効率が良い事です。 最後の理由が決定的ですね。2つ分でよければダーリントン接続でも良いわけですし… R3 は発振防止用です。定電圧を得るにはこの抵抗はない方が良いのですが、発振してはもともこうもないので 抵抗を入れます。ここに流れる電流は少ないことから 100~330[Ω]くらいで発振しない値を選びます。 といっても具体的な値は試してみるのが手っ取り早いです。 この方法は実際に ぺるけ式 FET式差動ヘッドホンアンプ(AC100V版) で使用してみました。発振防止用の抵抗は 120[Ω] を使っています。 |
<-Back
管理者: 宝 寿々郎(TAKARA Jujurou)
0 件のコメント:
コメントを投稿